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今回は東京都豊島区のお寺さんから依頼を請け、半畳サイズの四天付き拝敷きと厚畳(一畳台)を仕上げた時の記事です。
拝敷きは機械縫いできませんので全て手縫いで仕上げ、厚畳も裏側に紋縁(もんべり)の柄が綺麗に出るよう手縫いしました。
職人のこだわりと手間暇を掛けた本式の有職をご紹介させてください。
半畳の四天付き拝敷き
拝敷きや厚畳って、そもそもどんな場所でどうやって使うのか知っていますか
拝敷きは宗派によって異なり今回のように半畳の物や一畳サイズの物があり、多くの場合は四隅に四天と呼ばれる紋縁が付いています。
四天はその名の通り守護神である『四天王』を表しており、この茣蓙(ござ)に座って僧侶はお経を唱えます。
お寺と違い神社では『軾(ひざつき)』という半畳サイズの茣蓙を座具として使用しますが、こちらは四天が付いていませんし三つ折りにして持ち運ぶなど、お寺の拝敷きとは違った作りになっています。
軾(ひざつき)
厚畳は半畳で出来た物が多いのですが、今回は寺院の内陣に拝礼の方々が座るよう一畳の『置き畳』として使用されていました。
多くの場合は通常の畳のように厚み分だけ掘り込んである床に畳を埋めて敷き詰めてありますので、置き畳のパターンは珍しい敷き方です。
しかし一般人が畳を使用できるようになる以前には、床板の上に半畳の畳を置き、その上に高貴な人間だけが座することが許された時代がありました。
その畳は縁の色柄によって位が分けられていて、現在でも『高麗紋縁(こうらいもんべり)』と呼ばれる縁には色と柄が数種類あります。
高麗紋縁の柄
畳の本式(京都)と略式(その他の地域)は何が違うのか?古来から続く有職の掟
有職畳とは『有職故実に基いた畳』という意味で、古来より伝わる材料(素材)を使用して古来より伝わる製造方法を用いて作られた畳の事を言います。
簡単に言うと現代普及している材料で作りやすいからとオリジナル製法で畳を造らず、古来からの材料と技法を用いて製作する畳という事です。
しかしこの材料はともかく、技法においては京都のように代々受け継がれていない畳店が自分の習ったやり方や、自分の作りやすい作り方で勝手に変更して受け継いでしまったため、京都以外の地域では略式が当たり前になってしまっています。
恥ずかしながら東京の畳訓練校を卒業して国家資格の畳製作一級技能士になった当時の私でさえ、当時この事実には気付いていませんでした。
ということは全国のほとんどの畳屋さんが本式と略式があるなんて知らないということで間違いないでしょう。
今回作り直した拝敷きも前に施工した畳店がやったオリジナルの製作技法でしたし、厚畳に関しては裏側を縫わずにタッカーという大きいホチキスのシン(ステープル)で留め、それを隠すようにガムテープが貼ってありました。
前回の畳店が作った拝敷き
一般の人には分からないと思いますが、縁が重なる部分で作りが全く違います。
正直に言うと略式の方が縫うのは簡単で見栄えも良いです。
しかしそれでは有職畳とは呼べませんし、数十年後に新しく作製する畳店は元の作りを真似していい加減な物が出回りますよね。
有職に沿った作りの拝敷き
見えない所に職人のこだわりがある!私が手縫い仕上げで畳を造る理由とは
極一部ミシンで縫った拝敷きが仏具店のカタログなどに載っていますが、基本的には四天が付いていれば柄を綺麗に出すため手縫いするしかありません。
ひとえに手縫いと言っても粗く縫う職人もいれば細かく縫う職人もいます。
粗く縫ってあっても職人の技術で綺麗な仕上がりも見たことがありますし、逆に細かく縫っているだけの下手くそな仕上がりもよくあります。
今回の厚畳は置き畳として使用されていることもあり縁が付いた側面を機械で縫ってしまうと見栄えが悪いと感じました。
そのため前回作製した畳店と同様、高麗紋縁を裏側まで回して『くけ縫い』という縫った糸が見えにくく、裏側でも紋の柄は綺麗に出るように仕上げさせていただきました。
非常に手間の掛かる作業ですが、見えない所でも手を抜かないこだわりには、私の強い思いがあります。
それは前回作製した畳店よりも良い物を作りたい!という思いです。
向上心を持って仕事に挑まなければ楽な方に流されますよね。
手縫いは常に製作者の技術が露呈します。
見えない所を見るのは畳屋くらいのなものですが次回作製する畳職人に、私という人物が培った技術を見せるためのプライドとして妥協できない部分ではあります。
元の拝敷きの裏側
私が作った拝敷きの裏側
厚畳の裏側
厚畳の表側と裏側
まとめ
畳は誰が造っても同じではありません。
豊富な経験と技術に知識が伴ってはじめて寺社仏閣の畳は造られるべきで、全国各地に少数ではありますがその勉強を共にする畳店はあります。
有職畳に関して詳しく書いたページもございますので、是非ご一読ください。