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当店には1年に1~2件【最高級の畳替え】を希望されるお客様からの受注があります。
もちろん一言で【最高級】といっても素材や技術だけではなく、納期や仕入れの変動なども大きく影響してきます。
そのため今回はお客様の要望に沿った最高級を、自店の持てる力の全てを使って対応させていただきました。
簡単に言うと条件内で最高を目指したという事です。
私よりも技術力のある畳職人や、和室の状況によっては別の素材が採用されることもありますので、あくまでも今回の条件に合った最高級であることをご理解ください。
最高級で仕上がった和室
最高級の畳表替えをするにあたり、避けては通れない絶対的な条件
今回の畳替えをご依頼してくださったお客様は「忙しいでしょうし信頼していますので下見・見積もりには来ていただかなくて大丈夫です」と、ご依頼を電話で承りました。
しかし現場を見ずに高級な仕事を引き受けることほど怖いものはありません。
また、最高級をお望みの方に限らず『畳替えを依頼する』という経緯が非常に重要なため、詳しい状況把握のため無理を言って下見にお伺いさせていただきました。
現調のつもりで伺ったのですが、お客様の会社から学ぶことが非常に多く、気が付いたら私の方から色々と質問をして経営や健康についてなど勉強させていただきました。
お客様からの条件は大まかに下記のようなものです。
・最高級品で畳を表替え(張り替え)をしてほしい
・不在の5日間で施工してほしい
・網戸も全て張り替えてほしい
・他のことは全てお任せする
依頼を請けてすぐに下見へお伺いしましたが施工日までの日数に限りがあるため、仕入れられる材料の中で最高級を使用し手縫い仕上げすることをご提案しました。
・素材
熊本県八代市の橋口英明さんが栽培して製織した藺草(いぐさ)『ひのさらさ』というブランドの畳表を使用。
橋口さんは毎年行われる『品評会』という畳表の競技会で過去4回最優秀の『農林水産大臣賞』を受賞しているレジェンドです。
寝室として利用されるという事もあり、今回は耐久性よりも見た目を重視して藺草は『ひのみどり』という細く均一な色合いで美しい品種をチョイスしました。
手縫い仕上げのため手で引っ張っても畳表を十分に張れ、針で刺した穴が目立ちにくいように、畳表の縦糸は麻と綿を使用した『麻綿』です。
仕入れ時期や育成を含めたその年の相場によって違うため決まった仕入れ値ではなく【時価】となります。
長い藺草(いぐさ)が密集して織り込んである
畳の縁は麻を原料とした『麻縁』を使用。
麻縁は主に茶室で使用されていますが、その風合いは化繊生地とは違い落ち着いた雰囲気で触り心地も天然素材特有の高級感があります。
現代では綿製の畳縁が高級品になっていますが、麻縁はさらに希少で高級品となります。
・納期
まずは仕入れです。
依頼から施工日(引き取り日)までの日数があまりありませんでしたが、問屋さんの協力でなんとか間に合いました。
しかし引き取り日と納品日を合わせて5日間で仕上げるため、私自身の予定も含めてかなりタイトなスケジュール。
今回は表替えという表面であるゴザ部分の張り替えでしたが、新床(しんどこ・畳自体を全て新調する作業)の場合は更に時間が掛かりますので、長い納期が必要になってきます。
一流の畳職人でも最高級の素材と気を遣う手縫い仕上げの仕事は1日に2~3枚が限度です。
早く仕上げようとすれば手が荒れ(雑になるという意味)仕上がりに問題が出ます。
最高級をご要望の方は十分な納期をお申し付けください。
・網戸の張り替え
当店では従業員が数名いますので、畳替えと同時に網戸の張り替えも承ることができます。
既存の網戸は丈長や幅広だけではなく小さいサイズも複数あり、黒いネットが張られていました。
今回は外から見えにくいのに部屋からは景色が綺麗に見えるというマジックネットで張り替えさせていただき、フレームが老朽化によって曲がっているものは後日新調することに。
こちらは預かりの日数がありましたので、張り替えは余裕をもって仕上げることができました。
・他のことは全てお任せ
上記の条件以外は全てこちらがやりやすいようにやって構わないとの事でした。
そう言われると逆にプレッシャーを感じるものですが、今回に関しては良い意味でのプレッシャーとなり、私が今まで勉強してきたことや経験、技術を最大限に発揮できたのではないでしょうか。
と、格好良く言いましたが正直に言いますと条件下での満点仕事ではありませんでした。
このような仕事に限らず畳替えの仕事は毎日・毎回シチュエーションが違うため、終わってみると「あそこはもっとこうした方が良かったのではないか?」とか「あの時に最善は尽くし切れていたのか?」と疑問が毎回過ります。
納品後に改善点を含めた反省文を書いたら結構なボリュームになりましたしね・・・。
職人の仕事に完璧は無いという言葉を改めて痛感させられました。
最高級の畳表替えは素材以外に技術面でどこがどう違うのか
畳の手縫いと言えば針を握り肘を立てて糸を引っ張る仕草を想像できる方は数少なくなってきました。
現在では畳を手縫い仕上げできる職人は少なく、それ以上にそのような仕事自体が激減しています。
普段から手縫い仕上げをする畳職人というのは私が知る限り皆無に等しいです。
私も手縫いをよく売りにしていますが寺社仏閣の有職畳(ゆうそくたたみ)くらいなもので、実際に手縫い仕上げの依頼というのは一般家庭ではまずありません。
理由は1日に製作できる枚数が非常に少ないため手間を考えるとかなり高額な施工費になるためです。
手を抜いて粗く縫えば枚数は稼げますが、それなら大型の逢着機(ミシン)を使用した方が余程綺麗に仕上がります。
針と糸を使って手縫い
皆さんはご存じないと思いますが畳屋には国家資格である【一級畳製作技能士】という免許があります。
この資格は持っていなくても仕事ができますし、持っているから最高技術かといえば実はそうでもありません。
一級畳製作技能士免許は取ってからいかに手縫い技術を磨くか?また、有職畳などの知識と経験をいかに有した上で仕事に臨むかが問われます。
今回私が張り替えた畳は前に違う畳店の職人が新調や張り替えをしています。
お客様は畳の表面しか見えないため、その見える部分でしか評価できませんが私たち畳職人は畳を剥がして側面や裏面まで、前に施工した職人がどのように縫ってどのように補修しているかが分かるのです。
そのため前回の職人よりも手間を掛けて良い仕事をする。
同時にその職人よりも知識と経験が無ければ「なぜこのような補修をしているのか?」が分からなければ話になりませんよね。
そういった意味でも最高級は蓄積された知識と技術が非常に大事だということが改めて分かる仕事となりました。
一定間隔で縫っていく
因みに今回施工した畳は畳床(たたみどこ・畳の芯材部分)が藁(わら)製で框(かまち・畳の短手部分)に頭板(かしらいた・角が綺麗に出るように板材を入れてある)が入っていました。
専門用語が多すぎますよね。
畳表を剥がして見える頭板
この板が入っている畳は誰でも簡単に仕上げられる畳ではなく、新調する際は勿論、表替えでも補修等で技術力が必要となってきます。
特に板と藁の継ぎ目は段差になりやすく、藺草を数本並べるなど細やかな配慮が必要となります。
一流の畳職人が手縫いで仕上げる最高級の畳表替えの価格(値段)と必要な納期
自分のことを一流と言うのは非常におこがましいですが、それなりに勉強をして技術力のある畳職人が手縫いで畳を表替えした場合の料金は気になりますよね?
最初に言っておきますが今回の事例は『表替え』であり『裏返し』や『新床』とは違います。
まず先でも述べたように表替えは畳表というゴザ部分と縁を新しくします。
この素材は最高級という面では仕入れの時期や相場に左右されやすいので【時価】としか言いようがありません。
また使用される和室の使用方法により、見栄え重視か耐久性重視かによって縁だけではなく藺草の品種も違ってきます。
その点も踏まえて最高級品質の素材を使用した手縫い仕上げの表替え1畳単価は100,000円程度、納期に余裕があって仕入れと手間を無制限に掛けても良いのであれば、中継ぎ表と本高宮という麻縁を使用した1畳300,000円程度で京都の本式仕上げも可能です。
新調の場合は倍程度のお値段が掛かりますが、そもそもそのような技術を持った畳職人がほとんどいないことと、素材である畳表や畳縁が今後いつまで製造されるか。
畳屋だけでは本物の最高級は維持することが出来ません。
本物をお求めの方はお急ぎください。