今から12年前、とっくに国家資格一級畳製作技能士を持っている私に、お世話になっている渋谷の畳屋さんから「お前、東京の技術が全てだと思ってる?」と言われました。

その時は何のことだか分からずにいましたが「奈良県の畳屋さんが東京に来るから、お前も来い!」と呼ばれて、初めて会ったのが浜田畳店の浜田さんでした。

当時は一級技能士で知識は無いものの、それなりに技術には自信がありました。

ところが浜田さんの話している内容と技術面で全くついていけず、技術研修をするというのを聞いて初参加したのが11年前になります。

今回は、この11年で私がどのくらい成長できたのか?を試す技術研修のために、奈良県に行って学んだことをブログとして残したいと思います。

 

 

 

技術研修の内容と夜学、参加者の畳屋さんたちは全てが濃い!

なんと浜田畳店さんがある奈良県吉野町に集まったのは全国から約40名の畳職人さん。

初参加の若い職人もいれば、技能グランプリに出場するような有名な職人さんも多くいます。

初日は合宿の説明から始まり、京都で幻の技術と呼ばれる【四つ割りふくまし付け】を手縫い作業で体験。

私は28年畳屋をやっていますが、これほど技術的に難しい手縫いは経験したことが無く、他の畳職人さんも同様にお手本の先生方のようには全く上手くいきませんでした。

 

解説を聞く畳職人

 

実演する浜田先生

 

高室畳工業所の篠田先生

 

初めての四つ割りふくまし付けをする私

 

技術研修が終わった後は急いで風呂に入って晩飯を済ませ、直ぐに【夜学】が始まります。

夜学では【草座(そうざ)】という畳の原型の原型、基礎になる座具(仏具)のことで、経典を載せて読む場合や最も位の高い僧が座る物のレプリカを見せてもらい、その仕組みと歴史を学びました。

 

草座のレプリカ

 

夜学の様子

 

 

2日目の朝は後醍醐天皇玉座の間がある重要文化財建築の吉水神社と金峯山寺蔵王堂の見学をし、研修会場に戻り【厚畳(あつじょう)】という有職畳を4~5人の班に分かれて作製。

高麗紋縁という縁を略式ではなく本式で仕上げる作業で、上に来るゴザの縁と側面に来る縁の柄を合わせるのが難しい作業でした。

 

高麗紋縁を断つ私

 

完成間近の厚畳とメンバー

 

完成した厚畳

 

 

四つ割りふくまし付けが幻の畳製作技術と呼ばれる訳

まず最初に伝えるべきは京都の手縫いと、それ以外の地域の手縫いでは畳の製作手順が大きく異なります。

京都の畳製作技術を『本式』とすれば、それ以外の地域のものは『略式』となり、本式の技術を学ぶためには普通、京都の畳店に弟子入りしなければなりません。

今回の四つ割りふくまし付けは、その京都においても技術承継がほとんどされておらず、実際に畳替えでこの技術を手縫いできる職人はほんの一部であると思われます。

 

通常畳は側面が隠れてしまうため縁の幅は側面を覆うほど広くありませんが、四つ割りというのは藍染めされた幅約36㎝の麻布を四分割して切り裂き、9㎝ほどの麻布を畳の表面から裏面にまで届く時に緩まないように、裾に捻じった藁を入れて縫う技法です。

つまり反物状の麻布を四分割して畳に縫い付けるので『四つ割り』と言います。(五つ割りは現在の縁の幅)

更に藁をねじって側面下段と底面に来るように縫い付けることにより、側面の縁が畳床に密着せず浮いたようになる状況を『ふくまし付け』と呼びます。

側面は普通の畳と違い直角に見えますが、縁の中身には少しの空間ができるということです。

 

直角のようで縁の中に空間がある

 

この作業の難しい所はまず縁の裁断にあります。

小さな切れ味の良い包丁の先端だけ出るように紙を当て、その部分を指で摘まんで反物の縁を切ります。

これがまた思っているよりも難しく、練習しましたが真っ直ぐに切るのは至難の業でした。

次にねじった藁の束を側面下段と底面に配置するようにねじりながら縫い上げる技術。

思っているよりも畳の底面に流れていき、教わったように縫っても上手くいきません。

浜田先生は綺麗に仕上がるまで1年掛かったそうですが、1年で綺麗に仕上げられるようになるには相当な努力が必要だという事が良く分かりました。

 

藁をねじって側面と底面に当て縫う

 

10~20㎝ずつ皆で縫った

 

浜田先生の仕上がり具合

 

 

最高級の手縫い【四つ割りふくまし付け】の畳はどのような和室に使用されるのか?

元々、畳縁は現在のように『化繊』が主になる前は『綿』が主流でした。

更にそれ以前は『麻』製の縁が多く使用されていたようですが、現在では麻縁と呼ばれる縁を気軽に自宅の和室に採用することはまずありません。

理由は希少価値が高まり機械縫いできる麻縁でさえ価格が高騰しているということに加え、四つ割りで使用する反物になると入手も困難なほどになっています。

そのため四つ割りふくまし付けの畳は相当位の高い、ほんの一部の茶室に使用されています。

 

材料は元より、この技術は受け継ぐ職人がいなければいずれ無くなってしまうでしょう。

私のような東京の畳職人でも学ぶチャンスが訪れたことは本当に幸運で、今後は練習を重ねて貴重な技術を身に着け、後輩の畳職人へ受け継げるようになるべく修業します。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。