コロナ禍に1度だけ行くことが出来なかった【イ草植付け準備】ですが、なんと昨年ブログを書いたつもりが忘れていました・・・。
ということで11回目になるポット苗の植付けお手伝いに、今年も東京から熊本県八代市に行ってまいりました。

雨予報でも必ず晴れる
8月の線状降水帯による豪雨水害の爪痕
2025/8月11日
この日は休日にもかかわらず、いつも熊本に行っているメンバーと吉田さん親子(農家さん)のグループLINEが、朝から何度も通知されて嫌な予感がしていました。
内容は吉田さんから「豪雨で道が水没して川のようになっている」という写真と文章でした。
写真を見てビックリしましたが、普段歩いて通っている道が冠水し、歩いている吉田さんの足も踝まで浸かっていました。
驚いたことに、これは安全を確認してから作業場まで行った時の写真で、一番ひどい時は膝まで水に浸かるくらい水位が上昇したそうです。
製織作業中だった新しい畳表だけではなく、畳表を織る織機も濡れ、倉庫に備蓄してあったイ草の原草も一部水に浸かってしまい、濡れた畳表やイ草は廃棄するしかないとのこと。
何と声を掛けて良いか分からず、ただひたすら被害が最小限で済むように祈るような気持でした。

作業場に向かう吉田さん

水没した織機と織途中の畳表

濡れてカビの生えたイ草

水害が酷かった地域の濡れたイ草束と畳表
いま私に出来ることは、お見舞金と作業の手伝いで汗をかくこと
豪雨災害があったのは丁度お盆休み前という事もあり、行くのも大変ですが受け入れる農家さんも大変でしょうから、片付けにすぐ行くというのは断念しました。
しかし今できることは何か?と考え既存顧客様へニュースレターを送付し、売り上げの一部を農家さんへ【見舞金】として持参することを告げたところ、多くのお客様より支援の畳替え注文をいただきました。ありがとうございます。

お客様からの善意の気持ちを届けました
そして9月下旬に入り吉田さんからポット苗を始めた旨を聞き、仲間の畳屋さん達と八代入りをしました。
ポット苗の主な作業はイ草の塊をほぐし、苗を割ってポットの穴に入るように分割して刺していくというものです。
近年は高齢化もあり苗の割手が急速に減少して、農家さんにとって非常に時間を取られる作業になっています。
私は11回目にして初めて吉田さんから「早くなったねぇ~」とお褒めの言葉をいただきました。

この1パレットに320個の穴があり土が入っている

1本ずつ手で刺していく

田んぼに並べて完了
実はこのポット作業、刺すよりも苗の分割の方が難しく重要だったりします。
イ草の大きな株を大まかに分割し、更に新芽のある元気な子株だけを苗として残します。
中には見た目が元気でも枯れているものや、新芽が折れていたり、親芽が枯れているなんてことも。
そのような苗は田んぼに植えても十分に育成せず、枯れたり成長が遅く他の株に負けてしまう事もあります。
難しいのは分割時に元気な苗だけを選別し、ポットの土に刺す直前にももう一度チェックしてから指すという、非常に手間が掛かる作業という点ですね。
このような作業は朝から夜の10時ころまで休みなしで2週間程度続きます。

右:分割前の株 左分割後の子株(苗)

ポットに刺すことが出来る苗を束にする

夕飯後にも作業は続く
畳屋が今年初めてお手伝いさせてもらった作業と沖縄ビーグについて
今年はポット苗作業の最初の時期に行けたため、普段は経験したことのない畳表の乾燥と出荷作業に立ち会わせてもらえました。
畳屋は農家さんが製織した畳表を仕入れて畳の張り替え作業を行う業種のため、製織は何度か体験しましたが乾燥や出荷というのは未経験でした。
天気の良い日は仕上がった畳表を天日干しするのですが、この日は曇ったり小雨が降ったりという天気模様。
出荷を控え乾燥機で乾燥させ出荷場に持ち込みます。

出荷前に乾燥機で水分を飛ばす
出荷場では畳んだ畳表をプレスして専用の紙で包み梱包されます。
この状態で畳屋へ届くので、多くの畳屋さんはどのような工程で梱包されているかは知らないと思います。
良い経験ができました。

梱包された出荷前の畳表
ところでイ草はイ草でも沖縄で主に使用されている畳に【ビーグ表】という畳表があるのをご存じでしょうか?
ビーグというのは一般的なイ草に比べて太く丈夫な品種で、高温にも低温にも強いイ草の親玉みたいな草です。
現在では中国から輸入されていることが多いそうですが、沖縄県産もあり、沖縄県で畳と言えばこのビーグを指します。

左:一般的なイ草 右:ビーグ
その強靭な表皮は長く育っても自立するため、倒れるのを防止する網がいらないほど。
南方系の草で地球温暖化による高温にも耐え、収穫量も気候に左右されにくいようです。
発端は私が吉田さんに「ビーグの苗を屋上にあるプランターで育てている」と話したところ、一言目に「じゃあ育ててみようかね」でした。
※この品種については苗の移動に制限は無いという事でした
そんな数株の苗から今年で3年目。
プロ農家が軽い気持ちで始めたビーグはあっという間に増えて田んぼ一面緑色に。
この株を割って苗として、年末には手植えを手伝いに行きます。
今年4回目となる熊本出張ですね。

こんなに増えてる
まとめ
国産の98%を占めると言われる熊本県のイ草農家さんたちですが、豪雨災害により立ち直れないほどの被害を受けて、もう農家を廃業しようという方もいるそうです。
被害の程度はあるものの、多くのイ草農家が困難に立ち向かう中、材料である畳表が無くなれば畳店もお客様に良質な畳替えを提供できなくなる可能性がありますよね。
一人で出来ることは限られていますが、一緒に熊本まで通う仲間の畳屋さんや、行けなくても出来ることをして陰ながら支援してくださる方。
辛い事や悲しい事だけではなく、未来のために【ビーグ】を育てる前向きな農家さんもいる。
そんな明るい話題も含めて今回のブログを完結したいと思います。
災害援助のクラウドファンディングなどもありますので、日本文化の維持・継続のため、多くの方のご支援をよろしくお願いいたします。